「バニーの日なので」
「月くん、今日はバニーの日だそうですよ」
「お前、いくらやる気なくて暇だからってそういう俗世的な情報はどこから仕入れてくるんだ」
「私だって捜査のためにニュースくらい目を通します。ニュースとニュースの間でアナウンサーが季節の雑談で挟むんですよ」
「あぁ、なるほどね。じゃあお前がよく松田さんに買いに行かせてる人気店のお菓子とかもそういうので知るんだな」
「はい。ちなみに、私が今食べているフルーツタルトはワンホール限定だったので上げませんよ」
「別にいらないけど、よくワンホールも食べられるなお前」
「ところで月くん。日本は月と言えばウサギですよね」
「……そうだな。日本だと月面の模様はウサギが餅を付いてるっていうけど、そっちはなんだっけ? カニか、女性の横顔だっけ?」
「その程度の質問に引っかかって自分の出身がバレてしまうほど、貴方の中のLは頭が悪いんですか?」
「冗談だよ。というより、お前がこの後言うことがなんとなく分かったから話をそらしたい」
「分かりました。では直接いきましょう。月くん、バニー姿になってみる気はありませんか?」
「言うと思った! 嫌だよ!」
「季節感のない捜査本部に少しでも彩りを取り入れようと思ったんですが、駄目ですか? バニーガールですよ?」
「そういうのは七夕とかで取り入れてくれよ……っていうか、うさ耳は百歩譲って……いや譲りたくないけど、バニー姿ってバニーガールのことか!」
「バニーと言ったらバニーガールでしょう? はぁ、これだからエロ本がグラビアで止まってる優等生は」
「……っ、僕の趣味はどうでもいいだろう! あと、バニーガールも絶対に嫌だ。あんな足丸出しのハイレグ」
「分かりました、では逆バニーはどうでしょうか? 足も手も完全に覆われていますから問題ありませんね」
「おい、逆バニーの概念が出てくるのは令和に入ってからなんだ。こんな平成前半の世界観に持ってくるな」
「じゃあ今から令和設定にしましょう。はい、月くん。現代大学生っぽくTikTokでちょっとえっちな自撮り動画アップしてください」
「仮に令和設定でも僕がそんな炎上しそうなことするわけないだろう」
「じゃあ、なんならしてくれるんですか! 人参型のディルドを入れるとかだったらいいんですか! 私は尻尾が付いたアナルビーズ派ですけどね!」
「どっちも絶対にやらない!」
「はぁ……月くんが恋人の戯れに付き合ってくれないタイプだとは思いませんでした。マンネリを防ぐために色々と提案しているのに、アレも嫌だコレも嫌だとは」
「……マンネリを気にするほどの期間の付き合いじゃないだろう」
「いえ、こういうのは付き合い初めから意識しておくのが重要なんです。それなのに月くんときたら……」
「別に、僕だって協力しないとは言ってないだろう……?」
「はぁ、では、いったい何でバニーの日らしいことをしてくれるんですか?」
「……ウサギは寂しいと死ぬから、今日一日はずっと手を繋ぐ、とか」
「月くん…………ウサギが寂しさで死ぬというのは迷信ですし、縄張り意識が強い動物ですよ? ちょっと知識がない夜神月は解釈違いと言いますか、キラ感が薄くて興奮できないと言うか」
「迷信だってくらい知ってるよ! 僕がデレたらデレたでめんどくさい奴だな!」
「あ、でも手を繋ぐことが恋人とのマンネリ解消になると思っている18歳という図は大変興奮しました。さすがはグラビアで抜くタイプの純情派」
「分かった竜崎、お前がその気なら、ピーターラビットもドン引きな殴り合いで決着を付けよう」
その日、風呂から上がったら着替えの変わりに逆バニー服が用意されていてもう一戦竜崎と全裸で拳を交えるのは別のお話。
全裸で殴り合いはするのに、全裸より布面積がある逆バニーのどこが嫌なのかって?そういう話じゃないんだよ竜崎。