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「​同級生かく語りき」

 ライトの事について聞きたい?
 なんで急にそんな、まあ、別に減るもんじゃないしいいけどよ。
 つってもいったい何から話したもんかな。……何?まずは俺とライトの関係から、でいいのか?
 俺とライトの関係って言ってもな。
 あいつとは通学路が一緒になるから家が近かったって言うか、まあ幼馴染ってやつか。
 そうでもなきゃ、あんな完璧超人とそうそう簡単にお友達になんかなれねえだろ。
 いや別にライトのことを悪く言ってるんじゃなくて、本当に幼馴染から見てもあいつは非の打ち所のない完璧超人ってやつだったよ。優等生が服着て歩いてるって言うの?
 小学校の頃から、まぁモテたよな。運動神経抜群でテストの成績も良い夜神月くん。って、それはもうバレンタインデーの時のあいつは凄かった。いやあいつは高校の時までずっとすごかったんだけど。紙袋いっぱいにチョコレート持って帰るなんて許されるのは漫画の中だけのはずなんだがな。
 それで中学生の頃にはテニスのジュニアチャンピオンになったかと思えば、高校生全国模試一位の常連で、最後は東大満点合格だろう?なんでこんなすげーやつが俺の身近にいるのかって、改めて考えると実感なさすぎるな。
 でもこれが嫌味な奴ってわけじゃ全くなかったんだよな。正直、ライトが凄すぎて気後れするなんてことは全くなかった。あいつは本当に良い友達だったよ。
 とにかく気が合うって言うか、どんな話ししたって面白いし、よく遊びに行ったし、あいつと一緒だったら女の子もすぐ一緒についてきてくれたし。つっても女子全員ライトが目的だから俺がおこぼれに預かれたことなんて一度もねえけど。
 あ、でも下ネタとかはライトの前では言わないようにしてたな。あいつはゲスなネタっていうか性的なやつ?そういうの好きそうじゃなかったって言うか、なんていうか若干ピュアなとこあってさ。誰かがふざけてグラビア雑誌学校に持ってきた時も割と本気で嫌そうな顔してたんだよな。普通男だったらさ、ウキウキ気分で覗き見ちゃうだろそんなもん?あんな死んだ目でグラビア雑誌見るやつ初めてだったよ。
 だからなんとなく、ライトの前では下ネタ言わないようにしよう。みたいな暗黙の了解が当時の男友達の中であったな。今思うと同級生の男に何やってんだって話だけど、そういう部分だと特別扱い?お姫様扱い?されてたような気がするな、あいつ。
 完璧な同級生の、ちょっと周りとは違うところを揶揄いたかったったんだろうな。だめだめ、ライトちゃんはピュアピュアなんだからこんなの見ちゃいけませんよーって。
 あ、でもあいつ実はこっそりグラビア系雑誌買ってたんだよな。いつだったかな、高校三年の冬くらいか?姉貴が家の近くの本屋でバイトしてたんだけどさ、そこにライトがきわどい系のグラビア雑誌買いに来てたんだって教えてもらったことあってさ。あいつ顔がいいから数回しか会ったことのない姉貴もよく覚えててさ。あれは間違いなくライト君だったって。
 その話を聞いた時はあいつもちゃんと男だったんだなって感動したな。実はみんなに隠れてグラビア読んでたんだな、むっつりかよお前、みたいな。
 とはいえライトって実際のところプライド高い奴だから、周りに言いふらすようなことはしなかったよ。俺だけがこっそり、お前のグラビアの趣味は俺だけが知ってるからなライト、なんて心の友ぶってさ。
 え……、実際に心の友じゃなかったのかって?
 どう、なんだろうな。心の友ね。あいつにそんなのいたのかな。
 正直に言うとさ。まあ、小学校の頃からの付き合いだし。同じ通学路で集団登校とかしてきた仲だからさ。俺はライトのこと親友だと思ってたんだよ。
 みんなの憧れる完璧超人の夜神月だけど、俺だけは対等にあいつとやりあえるぜ、って。
 だけど何て言うんだろうな。いつ気付いたんだったか覚えてないんだけど、ある時ふと思ったんだよ。ライトが俺のことを親友だと思ってるんじゃなくて、俺がライトのこと親友だと思えるように振る舞ってくれてたんじゃないかって。
 あいつってさ、すげえ頭いいんだよ。勉強だけじゃなくて、器量っていうの?女子だけじゃなくて、男友達とか先生とか、誰相手でも自分が好かれるように演じるのが上手いって言うかさ。多分そういうの、全部計算できてたやつなんだ。
 だから俺に対しても、俺が一番喜ぶ夜神月を演じててくれてただけなんだよ。
 とんでもなくできるやつだけど、友人の俺には心を開いてバカみたいな話もしてくれる夜神月っていう、俺にとって一番都合のいい形をさ。
 はぁ、……何であいつにこんな印象を抱くようになったんだかな。高校を卒業するまでは、いや、高校卒業してもしばらく俺はずっと、ライトのこと親友だと思ってたんだよ。
 俺は結局行きたい大学に落ちちまったから、一浪したのもあって卒業後はライトとはあんまり絡まなかったんだが、その頃もたまに連絡は取り合ったし、県外の大学で地元を離れた時も盆や正月に帰ってあいつと遊んでた。
 変わったのは多分、ライトが刑事になったって知った時、だな。
 俺、確か高校の頃からだったかな。ずっと、刑事を目指してるって友達に、当然ライトにだって言ってたんだ。
 やっぱり刑事になるんだったら叩き上げよりはキャリアの方がいいよなとか。あの頃ちょうど話題になってたキラ事件についても、よくライトと話ししてたよ。キラがどれくらい犯罪の抑止力になってるかとか、日本の警察が今後どうなっていくのかの想像とか。
 でも俺は、ライトが刑事になりたがってたなんて一切知らなかった。あいつの親父さん、確か警察のかなり偉い人だったけど、そういう大変なところを見てきたから正義感ある奴だったけど自分はなりたいとは思ってないのかなとか考えてたんだけど。
 単純に、ライトにとって俺はそこまで話す相手じゃなかったんだろうな。自分の将来の夢とか、同じ夢を目指している友達に対してだけ話すこととか。そういうの俺とアイツの間には何もなかった。
 そりゃよ、俺も色々考えたぜ?ライトが刑事になりたいって思うようになったのが大学に入ってからだから、俺とはそういう話しなかったんだとか。
 でもさ、相沢局長の元で仕事するようになって、松田先輩から、実はライトは高校卒業してすぐにキラ事件の捜査に関わってたんだって聞いちまったらさ。それもずっと最前線で、主要メンバーとしてキラ事件を追ってたなんて、そんな奴が少なくとも高校時代から刑事になりたい以外の目標を持ってたなんて、考えられないだろう。
 正直に言えば悔しかったし、裏切られたような気持ちにだってなったさ。
 お前と俺との十数年間ってなんだったんだって。つい走馬灯みたいにライトとの日々が蘇った。
 でも、どうして俺に教えてくれなかったんだよって、なじる気にはならなかったな。
 そりゃそうだろ。俺がのうのうと大学生やってる間、あいつはずっとキラ事件を追っていたんだ。
 それを知った時、俺はいかにライトが完璧超人で、俺がただの凡人なのかを痛感したよ。
 俺がただ傍観者としてしか見ることのできなかったキラ事件、あいつはその渦中に関わってた。それに、なんでも今日本警察に色々と指示を出してるLともライトは対等にやりやってたって言うじゃないか。あのLだぞ?俺はLが一方的に指示する内容ですら理解して追いついて行くのがやっとだっていうのにさ。
 だから、俺とライトじゃそもそもの能力が違ったんだ。人間としての出来って言うの?そりゃ全国模試一位取るようなやつと並べるとは思ってなかったけどよ、これでも京大卒としてはさ、ライトほどじゃないけどある程度頭の良さには自信もあった。でもさ、ただの大学受験にしたって、あいつは満点首席で合格、俺は一浪して補欠で合格じゃ、話にならないって言うか。
 そういうお勉強ひとつとっても、俺はあいつの足元に及んだことなんて一度もない。それどころかあいつは何でもできた。勉強もスポーツも人間関係も、あとそれと外見もか。最近久しぶりに高校時代のアルバム見返したけど、ライトだけなんか違うんだよな。他のやつはいもっぽいただの高校生なのに、あいつだけどっかからモデルを連れてきたみたいに綺麗でさ。後は何て言うか、オーラそのものが違うって言うか。わかるだろ、一目見て凡人じゃないってわかるやつなんだ、夜神月っていう人間はさ。
 そういうのが何もかも違ったけど、あいつは高校時代そんなもの俺に悟らせなかった。
 あいつはずっと、気の合う友達、夜神月を演じてたんだ。
 本当に上手かったと思うよ。俺はライトの笑顔が嘘だとかそんな事を疑ったことない。疑うなんて考えたことすらない。いっそあんだけ顔もスタイルも良かったんだから、役者にでもなったらよかったのに。そしたら今頃スーパースターだろ。日本どころか世界で活躍してハリウッド映画とかにも出ちゃうくらいの。それかあとは詐欺師とかでも一流だったかもしれないな。まぁ、ライトだったらどんな職業やったって一番に上り詰めるんだろうけど。
 そう思っちまうくらい、あいつは完璧だった。完璧すぎて、周りと自分のレベルがあんなにも違ったのに、気後れなんてさせないくらい気配りがあって、演技力があって。って、こんなこと言うと、あいつ自分の本心なんて一度でも見せたことあるのかって疑っちまうな。さすがにそんなことはないんだろうけど。ないって信じたいけど。
 でも少なくとも、今だから思う。ライトは俺のこと、心の底から信頼できる友人だなんて思ってなかった。
 だから俺は、あいつの親友だったなんてこと言わないよ。
 俺が自信もって言えるのはせいぜい、客観的な事実として幼馴染だったってことくらいだな。
 はー、思い返したら涙出てきた。絶対に松田先輩には言うなよ?あの人絶対にからかってくるからな。いや、でもあの人もライトには一目置いてたっぽいから、案外からかって来ないかも。なんつかー、そういうところもさすが夜神月って感じだよな。
 本当はさ、ライトに色々と話したかったんだ。大学卒業する頃に結婚して、嫁さんの家の都合で俺が婿入りしたから名前が変わったとか。でもその変わった名前っていうのが、山元から山本だからほぼ変わってないも同然だとか。お前招待状送ったのに来なかったよなとか。まぁ、その頃キラ事件のせいでアメリカに居たって言うんだからしょうがないけどよ。
 後は、同じ刑事としての立場に立ったら、もっと違った、腹を割った話もできたのかもしれないのかなって……。
 あーやめやめ、こんな辛気臭い話いつまで続けるんだよ。いや、辛気臭くしたのは俺のほうかもしれないけどさ。
 ともかく、夜神月っていう人間は、あいつに関わってきた人間にとって特別な奴すぎたって、そういう話だよ。
 でも多分夜神月にとっては、特別な人間なんていなかったのかもな。
 僻み?恨み?はは、確かにそういう感情かもしれない。あいつのこと好きだったから余計に……違う違う、確かにあいつ顔は良かったけど恋愛的な意味じゃないって。俺既婚者だぞ、嫁さん一筋だっつーの。
 まぁ、恋愛感情とかそういうの抜きにしてでもさ。もしも、ライトにそんな特別な人間なんてものがいたんだったら、俺はそいつに嫉妬しちまうな。
 でもライトのことだから、俺が嫉妬なんてできないくらいすごいやつ相手じゃないと、特別な感情なんて抱かないだろうな。

 


 そうだな、たとえば、Lとか?
 あはははは、冗談だって冗談。

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