「ロマンなので」
「月くんの精神力は目を見張るものがありますね。監禁から解放されて二日目で、もうこんなに平然としている」
「そんな精神力を持っている僕はキラ濃厚って? 言っておくけど、僕が平然としていられるのは、僕や父さんをこんな目に合わせたキラを絶対に捕まえたいっていう意思が強いからだ。そういう理由があるから、止まっていられないだけだよ」
「たしかに目的意識がある事によって精神的な負担が軽減されることはありますが、月くんはその限度を易々と超えているように思います。普通の人間は復讐心があったとしても、長期間の監禁には疲弊するものです……つまり、これだけ強い精神力を持つ月くんは即堕ち2コマをしてくれないタイプというわけです」
「そくお……なんだって?」
「むしろ、あのキラが即堕ち2コマをするようでは、らしくない。解釈違いです。もしも即堕ちするようだったら、裏に何かあるのではないかと考えるべきだ」
「僕はキラじゃないし、お前の言う『即堕ち2コマ』っていうのに僕は怒ってもいいんだってことはなんとなく分かった」
「月くんは即堕ち2コマは趣味ではありませんか? たしかに、あれはその安易さを楽しめればいいですが、即堕ちする人物への思い入れが強いとむしろ苛立ちを感じますからね。しかし、キラである可能性が高い月くんですからある程度予想できていましたが、これでは闇オークションも月くんでは想像できませんね。どう考えても人身バイヤーに捕まりませんし、そもそもキラならその犯罪組織自体が裁きの対象でしょう。はぁ……3億円と言わず3億ドルで落札したかったんですが」
「……言いたいことはたくさんあるんだが、竜崎。なんで僕を落札する前提なんだ。お前なら人身売買をする犯罪組織なんて、やろうと思えばすぐに『L』として動いて潰せるだろう」
「月くん……貴方はロマンというものが分かっていませんね。白く薄いシャツ一枚を纏った美青年、拘束され見せ物になることへの屈辱に顔を顰めている姿、しかしその奥に覗く自分の行く末の不安、そんな月くんを圧倒的な金額で落札して、ドロドロの蜜月を過ごす……自分は買われた側なのに、こんなに気持ちよくていいのかと不安そうな表情をする月くんをさらに、私なしではいられない体に調教していく……いいですね、まさにロマンです」
「竜崎。いいか、人身売買は売る側も買う側も犯罪者だ。どう考えても僕はそんな犯罪者と蜜月は過ごせないし、仮に僕が落札されたとしたら最初こそ従順なフリはするかもしれないが、絶対に逃げ出して闇オークションに関わった奴全員に法的な裁きを下す。というか『買われた側なのに、こんなに気持ちよくていいのか不安』って、そいつはどれだけ自分の人権意識が低いんだ? 一度カウンセリングを受けるべきレベルだろう?」
「月くん、ロマンに正論は止めてください……。と、月くん相手ではこうやって正論で切られますし、なにより私の中の夜神月像に合わないので、やはり私が一番興奮できて尚且つ現実的なのが、キラを捕まえることなんです。キラとして捕まった月くんを秘密裏に監禁、お前の全ては私のものだと教え込むにいったいどれほどの時間がかかるのか……。今回の監禁で少しは分かるかと思いましたが、中々に手強そうです。ですが、そうでなければキラではない。私も簡単に堕ちるようでは興醒めです。なので、月くんをキラとして捕まえた暁にどのような事をするか、今から考えるのがとても楽しいです。本当は月くんの快楽に対する耐久度も測りたかったんですが……まぁ、それはこの手錠があるので追々確認させていただくということで」
「分かったよ竜崎、それが遺言でいいんだな?」
「私を殺そうとしているとは、やはり月くんがキラですね!」
「僕はキラじゃないし、今すぐにこの手錠を外して別室で捜査させてくれないか?」
「まさか月くんから再び監視付きの監禁を申し出てくれるとは思いませんでした。分かりました、では用意をしましょう。ああ、今回は皆さんには見せないので、首輪でも猫耳でも好きなものが出来ますね、実に楽しみです」
「やっぱりお前、ミサの監禁方法も趣味だっただろう!」
「いえ、私が興奮するのは月くんだけなので」
「ああ! 僕はキラじゃない! キラじゃないけど! 殺人方法だけでもいいから今欲しい! とりあえず父さん、息子の人権の危機に気付いてくれ! たのむから!」